月とピアノ
月の雫は
タイサンボクの花に降る
屋根の瓦は海
月の歌聞いたよ
鳥を起こさぬよう
そっと、月は
空から降りて来る
眠ったピアノに
手を置くと
初めて習う
調べのように
音を鳴らしていく
キン
ポロン
キン
ポロンロン
キン
キンポロンロン
キン
真珠のような音が
ピアノを飛び立つ
音は混ざりあい
スケートのように滑らかに
夏の雷雨のように強く
子猫の寝息のように静かに
流れてひとつの川になる
キン
キンポロン
月は弾く
海はいくつあるのでしょう
山はいくつあるのでしょう
ただひとつのものの
深い孤独を抱えて
月は歌う
白む空
月は消え
音は残る
誰も知らない月の歌
聞いていたのは
ピアノだけ